違いのわかる日本人
 
金子みすゞの詩に「大漁」という短い詩があります。漁師たちが浜辺でイワシの大漁だと祭りのように大喜びしている一方で、海の中では何万ものイワシたちが仲間の葬式をしている、という内容です。その視点にハッと胸をつかれた人も少なくないでしょう。海は人間だけのものではなく、魚たちの生きる場でもある。いや、海だけでなく山も川も、自然という名の生態系には多くの生き物が存在し、そのおかげで人間も生存できている。そんな謙虚な心が奥深いところからわき出してくるのを感じる人もいるでしょう。

地球上の生き物は動物・植物を併せて175万種、未確認を含めると3000万種もが生存しているそうです。そして毎年、何万種もの生き物が絶滅し、あるいはその危機にさらされていると推定されています。その種を、その遺伝子を、その生態系を保全しようと、世界中の国々が行動を始めています。生物多様性という、あまり聞きなれない言葉が今年に入って盛んにニュースで見られるのは、2010年が「国連生物多様性年」であり、10月には名古屋市に190を超す国・地域が集まり、「生物多様性条約第10回締約国会議」、COP10(コップテン)が開催される予定だからでしょう。

国、社会、企業、職場、学校、家庭などで今後いろいろな取り組みがなされるでしょう。私たち一人一人には難しい課題と思えるかもしれませんが、原点は簡単明瞭、すべての生き物の間には違いがあることを認めることです。金子みすゞのもう一つの詩「私と小鳥と鈴と」を思い出しました。私は小鳥のように空を飛べないが小鳥は私のように地面を速く走れない、私が体を揺すっても鈴のようないい音は出ないけど、鈴は私のように多くの歌は知らない、と三者三様の持ち味があることを歌ったうえで、「みんなちがって、みんないい」と結んでいます。自然を人間が克服し制御すべき対象とみる欧米文明に比べ、自然と人間とを一体視する生命観の中で長く生きてきた日本人こそ、この分野で世界を主導する第一人者だと、自信を持っていいと思います。
  

medical mates February 2010