おばあちゃんの知恵
 
「トイレの神様」という変わったタイトルの歌がいま、静かなブームを迎えています。シンガーソングライターの植村花菜さんが作詞・作曲して、自らアコースティックギターを弾きながら歌う10分近い曲です。ライブ会場で本人が歌うと、多くの人の目から涙がスーッと流れる、それも大半は若者たちです。涙なくしては聴けない感動曲、珠玉のレクイエムソングとメディアが書きたてました。上海万博会場でのライブでも、歌詞の内容を中国語の字幕で知った中国人の若者の多くが泣いていました。

「これは100%私の実話です」という兵庫県川西市出身、27歳の植村さんが書いた歌詞は、さながら私小説のようです。複雑な家庭で両親が離婚後母と共に暮らし、4人きょうだいの末っ子だった花菜さんは、小学3年生のとき祖母と2人の同居生活を始めました。お手伝いはするもののトイレ掃除だけは嫌がる孫娘に向かって、おばあちゃんが「トイレにはそれはそれはキレイな女神様がいるんやで。だから毎日キレイにしたら女神様みたいにべっぴんさんになれるんやで」と、まるでおとぎ話のように優しく語りかけた。「私は単純な性格。べっぴんさんになりたい一心でその日から自宅も学校のトイレもピカピカに磨きました」と花菜さんは苦笑しながら振り返る。だが思春期から大人へと成長するうちに、祖母との距離が離れる。そして迎える祖母の死。「恩返しもしてないのに」という後悔の念につまされながらも、「おばあちゃん、ありがとう」と感謝の気持ちをささげて歌は終わります。

戦後の日本社会は「核家族」の名の下に、祖父母との同居を排除した親子家族をモデルにしてきました。子供は家庭内で親と向き合う時間が大半で、親以外の大人と日常触れ合うことが少なくなりました。そこで何を失ったか、一口では言えない光と影がありそうですが、子供にとって「おばあちゃん」という逃げ場があるとそこで日々のストレスを緩和し、親とは違う世界観と接することでいろんな生きるヒントをつかめるといった光はあったはずです。おばあちゃん子は優しい子が多いと昔から言われていました。7〜9月放送中の連続ドラマの中で一番視聴率が高いのが「ホタルノヒカリ2」(日本テレビ)ですが、これも綾瀬はるか扮するヒロインがおばあちゃん子で、天然系ながら周りの人たちを明るく楽しい雰囲気に包む、根っからの優しさを持つ女性という設定です。「失って初めて知る親の恩」ということわざに、21世紀の今は「失って初めて知るおばあちゃんの知恵」を付け加えたほうがいいかもしれませんね。
  

medical mates Aug 2010