「ことしは冷夏になる」。5月ごろに聞いた長期予報は幻聴だったのか。そんな恨み節が列島各地から聞こえてきそうな猛暑続きのことしの夏。熱中症予防の工夫は不可欠ですが、盛夏を乗り切る知恵も求められます。夕涼みに食べる果物は瞬時、昼間の暑さを忘れさせてくれますね。スイカを豪快にかぶりつき、ほのかな甘みの桃を口の中に入れて上品な香りを楽しむ。高温多湿の日本の8月に、この二つの果物があってよかった、とホッとします。どこか男性的なスイカと女性的な桃、という対比。2020年7月24日開幕の東京オリンピック大会にやってくる世界各国の人に、ぜひ味わってもらいたい日本を代表する夏の果物です。


その桃の出荷量では山梨県に次いで全国2位という福島県が、今も風評被害に苦しんでいると聞いて、ちょっと心が冷えました。11年3月11日の原発事故以来、米・野菜・果物・水産物など、福島県産の食物は確かに放射線にさらされました。その年は出荷できない農産物が多かったものの、モニタリング検査による結果をすべてホームページで公表するという基本姿勢を貫き、翌年からは大半が検査をクリアして、再び全国の市場に出回りました。桃に関していえば、国が定める基準値(100Bq/kg)を超えるものは流通させない取り組みを徹底させ、安全・安心の食べ物として以前のような出荷体制に戻りました。戻らないのは価格と売り上げです。韓国や台湾など近隣地域だけでなく、国内でも「福島産」というだけで買い控える傾向が今も続いています。風評被害です。現地の農家は口をそろえて「いくら数値を示して安全・安心だと説明しても、全体の2割くらいの人は理解してくれない」と悔しがります。福島市に47ある観光果樹園も、多くが事故前の半分くらいに入場客が減っており、とくに団体客のバスツアーがまだ回復していないそうです。


福島県の桃農家を7月、天皇皇后両陛下が訪れました。伊達市の桃は1994年から毎年天皇家に献上しているとか。東日本大震災の被災地を頻繁に訪れている両陛下は、そのお礼と共に、きっと風評被害に負けないでという気持ちを伝えたかったのではないか、と地元では受け止めて感謝しています。伊達市と福島市が二大産地の「福島の桃」は、7月初めの早生(わせ)種「はつひめ」から、7月下旬〜8月の中生(なかて)種「あかつき」を経て、9月の晩生(おくて)種の「川中島白桃」、10月上旬の極晩生種「さくら白桃」まで、約20種類と豊富な味が長い期間楽しめます。無袋栽培なので表面の色づきがよく、性フェロモン剤で農薬使用を減らし、光センサー選果機による選別で糖度保証の高品質で出荷できることを誇りにしています。とくに県内生産量の約5割を占める「あかつき」は、福島県が粘り強く研究を続けて大玉化に成功、地元の祭り「信夫三山暁まいり」にちなんで名づけられ、79年に品種登録された日本で最も多く生産される郷土の自慢品種です。桃作り一筋45年という生産者(65)がメディアの取材で「あなたの夢は?」と問われたとき、真剣な表情で「この土を元に戻すことです」と答えた後、30秒ほど何も語らず、じっと地面を涙目で眺めていた姿が印象的でした。ことし地元の若手生産者と福島大学が提携して、ふくしま土壌ネットワークを設立し、「あかつき」ブランドを強化する活動に取り組み始めたのも、小手先ではなく根本から立て直そうという決意の現れです。東北人らしい、信念に基づいた粘り強い闘いが、やがて大地を揺るがすことになる。桃を食べながら、そんな熱い夢を見るのもシャレた消夏法でしょう。たかが桃、されど桃!




株式会社メディカルメイツ