今年の新語・流行語大賞の候補にノミネートされた中に、「インバウンド」「爆買い」がありました。ともに来日外国人観光客が史上最多となった現実を指しています。その余波というか、影響の一部に、都会のホテルが満杯で日本人ですらなかなか予約が取れないという現象が生じました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、ホテル不足が早くも露呈した格好です。でも、ホテルは今後、首都圏で増えていくでしょうが、逆に減ってきているのがホールです。クラシックのコンサート、人気アーティストのライブ・リサイタル、バレエの公演など様々な文化芸術表現の場となるホール・劇場が今、相次ぐ閉館、改修によって少なくなっているというのです。日本のライブ・エンターテインメント界が初めて迎えた危機だという声が広がっています。


「2016年問題」が深刻だ、という声が上がっています。首都圏では有数のライブ会場である「横浜アリーナ」(収容人数約17000人)と「さいたまスーパーアリーナ」(約37000人)が、ともに来年、6カ月〜4カ月改修のためクローズするため、音楽ビジネス界にとっては大打撃になるというのです。大物スターや人気グループのライブの予定が組めず実入りの良いライブ会場が使えないと、収益がぐっと減るからです。ポップスやロック系だけでなく、クラシック畑の会場も減っています。今年9月30日、東京・五反田にある「ゆうぽうとホール」(約1800人)が33年間の歴史にピリオドを打ち、閉館しました。海外の有名バレエ団や国内の人気バレエ団の公演を続け、バレエの殿堂として定着していました。同じくバレエ公演でよく使われていた「日本青年館」、「青山劇場」が今年、相次いで閉館されました。この5年間では、10年に「カザルスホール」と「東京厚生年金会館」が、13年に「普門館大ホール」が、14年に「SHIBUYA−AX」がそれぞれ閉館、今年は「渋谷公会堂」も建て替えのため閉館されました。改修の波はさらに続き、16年は先述の2大アリーナのほか、「日比谷公会堂」、17年は「サントリーホール」、その先も「代々木第一体育館」や「東京国際フォーラム」、「国立劇場大劇場」の改修も予定されており、音楽の殿堂として40年以上老若男女の音楽ファンに親しまれ、最近ではアイドルの聖地とも呼ばれる「中野サンプラザ」も、解体され中野駅ビルとして生まれ変わることが決まっています。


ホールは単なる容器じゃないか、大切なのは音楽そのものという人がいるかもしれません。でも、たかが会場、されど会場、です。例えば、「日本武道館」です。今も多くのアーティストがあこがれ、ミュージシャンの聖地と呼ばれているのはなぜか。1966年のビートルズの来日公演をはじめ、多くの内外エンターテイナーが歌い踊り盛り上がったときの汗と興奮が今も会場に微生物のように付着しているからではないか。まるで酒蔵やワイナリ―の壁や天井に付着している酵母菌や麹黴のように、そこのステージで生み出される音楽を銘酒にして観客を酔わせる……ミュージシャンはそんな場の力を信じているからではないか。そんな妄想もあながち外れていないような気がします。会場がミュージシャンに勇気を与え、音楽を豊かにし、聴衆を幸せにする。ホールとは不思議な力を持っているものです。ああ、それなのに2016年問題に続き、20年問題もあるという。オリンピック関連行事に多くのホールが使われ、伝統芸能からロックまで幅広いジャンルの公演場所が減るのではないか、という危惧が広まっています。今年、一大騒動に発展した新国立競技場建設。その設計を議論する際に、音楽ライブ公演はまるでじゃま者であるかのような声が政治家たちから響いてきました。サッカー・ワールドカップ06年ドイツ大会の時、スタジアムに市役所やギャラリーを併設して、スポーツだけでなく日ごろから多くの人が集まる場所にした設計の成功例に学んではどうか。少なくとも、さすが世界の文化都市・東京だね、と言われるようにしてほしい。カッコいい施設を外国人に見せるお祭りを演出するのはでなく、現に生きている日本人が豊かな文化生活を楽しんでいる普段の姿を見せる方が、よっぽどクールジャパンではありませんか。




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