少し前からもう時代遅れではと言われてきた百貨店、デパートが、このところ何かと賑わい、話題となっています。まずは「爆買い」。主に中国からの観光客が日本に来て、東京、大阪、名古屋といった大都会の百貨店で一度に何十万円、何百万円もの買い物をする。その恩恵で、長期低落傾向が続いていた百貨店業界も対前年比の売り上げ、利益ともグーンと上がりました。次いで、日銀が今年に入って打ち出した史上初のマイナス金利政策も、百貨店には思わぬ追い風となっています。毎月一定額を積み立てて1年満期で13カ月分の買い物券がもらえる各百貨店の「友の会」。年利換算8%になるとあって、出資者が急増中です。久々に百貨店が華やぎを取り戻したかのようです。


かつてはキラキラと華やかな雰囲気に包まれた特別な空間だった百貨店。そのルーツは1852年にパリに誕生した「ボン・マルシェ百貨店」と言われています。一つの企業が経営する大きな建物の中にいくつもの専門分野の売り場がそろい、一般消費者向けに展示販売する大規模小売店という新形態の売り場の登場です。産業革命で都市に多くの労働者が集まり、賃金上昇に伴う中間所得層が増えると、消費意欲が高まる。一方、生産現場では同一規格の大量生産が可能となり、日常生活品など幅広く出回る。「人」と「物」が揃うとそこに「市場」が生まれ、今度は交換・売買のための新しい「場」が登場する。それが百貨店という図式です。日本では1904年の三井呉服店から発展した三越百貨店が第一号といわれ、庶民にはちょっと敷居が高い憧れの店としてスタートしました。多くは7〜8階建てのビルにシャンデリアなど豪華な洋風飾りつけを施したため、戦前戦後の長い間、日本の百貨店はキラキラした存在だったのです。


ところが、消費社会が成長から成熟段階に達した1980年代のバブル経済時代あたりを境に、百貨店の輝きが次第に衰えます。衣料や食料など日用雑貨は家から近いスーパー、コンビニで十分にこと足り、シャレた高級品は専門店に行った方が品揃えが豊富。1990年代からは大型ショッピングモールや大型アウトレット店が続々と登場し、追い打ちをかけるように、2000年代にはネット通販がこの世に現われ、わざわざ外に買い物に出かけなくてもパソコン、スマホで簡単に欲しいものが手に入る消費新時代が幕を開けたのです。四方八方からライバルが押し寄せ、百貨店という業態そのものが絶滅危惧種になりかけましたが、2000年前後からは企業統合・提携など百貨店同士の再編の動きが活発化して、生き残り戦略を模索中です。この4月から高島屋日本橋店が営業時間を1時間短縮し、三越伊勢丹も店によって30分短縮します。営業時間を広げてきた歴史に初めてピリオドを打つ背景には、有卦(うけ)に入るホテル業界への人材流失による人材不足と、長時間労働を厭う働く側の意識の変化があります。これを機に百貨店業界は、より専門性の高い従業員育成に努める方針です。かつての栄光に引きずられず、21世紀に生きる消費者にとって百貨店の魅力、存在感は何なのか、その原点から考え直すと、新たな可能性の光が見えてくるかもしれません。100年以上存在してきた百貨店の転換期は、同時に物を多く買えば幸福感が増すという私たちの人生哲学の見直し時期でもあるかもしれません。買い物して物をたくさん持つのが幸せという戦後社会を貫いた消費哲学を顧みると、反省の二文字がチクリと疼く中高年が少なくないでしょう。物の所有にこだわらない若者が増えてきている現実を前にすると、膨らんだ財布を握りしめた大人たちの消費行動が日本の今後を決めるかもしれません。




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