もし「モナリザ」が微笑んでいなかったら、500年以上も世界で最も注目される絵画であり続けたでしょうか。レオナルド・ダ・ヴィンチの偉大さは誰もが認めますが、あの微笑みの魅力こそが、世界中の人を虜にする秘密なのです。見る人の心を平安にする微笑みならば、我が国も負けていません。中宮寺と広隆寺に伝えられる半跏思惟(はんかしゆい)像です。右足を左足の上に組んで座り、右手の中指を右頬に軽く触れて物思いにふけっているようなポーズ。古代ギリシャに淵源を発するアルカイック・スマイルを浮かべて、幸福感や平和感を与えてくれる穏やかな微笑です。


このほど、中宮寺の国宝仏像と韓国の国宝78号に指定されている半跏思惟像の2体が同時に見られる特別展「ほほえみの御仏〜二つの半跏思惟像〜」が企画され、韓国と日本で相次いで開催されることが決まりました。仏教はインドから中国を経て6世紀半ばに朝鮮半島から日本に伝わり、仏像制作技術も7世紀の飛鳥時代に伝わったとされています。今回の2つの仏像を並べてみると、ポーズから表情までよく似ていて、古代に文化交流があった証が理屈ではなく目で見てすぐ納得、理解できます。ただ、韓国の国宝が6世紀後半の三国時代(高句麗・百済・新羅)に造られた高さ83センチの金銅製なのに対して、中宮寺の国宝は高さ132センチの木造。しかも日本に多くあったクスノキ材を使って制作しているので、百済から来た仏師に習った日本人が7世紀後半の飛鳥時代に造ったメイド・イン・ジャパンではないかとの見方が強いようです。明治以降、欧米から入った文明開化の技術や品々を素早く取り入れ、やがてすぐに日本化、和風独自のものに応用、発展させていった日本人の得意技は、すでに古代から発揮されていたことがうかがわれます。


奈良・斑鳩の里にある中宮寺は法隆寺に隣接しており、聖徳太子が母親の宮殿を寺にしたと伝えられています。ふくよかな面差しは当時の日本人の表情を映したものでしょうか。戦後何度も50円切手のデザインとしても使われています。人や物の本質にレンズを通して迫った気鋭の写真家、土門拳は多くの仏像を撮影して、その体験を「日本の仏像」という本にまとめました。その中に、中宮寺の半跏思惟像について記したくだりがあります。「頬にあてられている右手の細くおだやかな指先は色っぽく、官能的というほどしなやかな表現を与えている。僕はこの観音像くらい、女、それもゆたかな母性を感じさせる仏像をほかに知らない」。海のように深くて広い包容力のシンボル。今回の展示は、「日韓国交正常化50周年記念」という枕詞がついているように、ここ数年冷え込んでいる両国関係をなんとか温かくしたいという両国関係者の熱意から実現したという。ほほえみの御仏展は、ソウルの韓国国立中央博物館で5月24日から6月12日まで、東京国立博物館で6月21日から7月10日まで開かれる。2体の仏像の微笑みパワーが、さて両国民に微笑みをもたらすかどうか。




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