「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことです」。この言葉、含蓄がありますね。世界で一番物を持っていない大統領という肩書?のホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領の発言です。ただ、この文脈での貧乏は、欲望を膨張させて止まない、心の貧しさを指す意味で使われています。パナマ文書で露見した節税に血まなこの世界中の富裕層こそが、世界で最も貧しい人たちなのかもしれません。物質的貧乏はまだ地球上から消えていません。GDP世界3位のわが国でも最近、子どもの貧困、若者の貧困、老人の貧困と、「貧困」の二文字が目立ちます。特に日本社会の4人に1人という65歳以上の高齢者層に貧乏神が取りついたようで、昨年の新語・流行語大賞にノミネートされたのが「下流老人」。造語の主、社会福祉士の藤田孝典さんによると、生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその怖れのある人を指すそうです。


下流老人と並び、不良老人という言葉も最近よく聞かれます。すぐにカッと頭に血が上り大声で喚きちらすキレる老人を、電車内や公道上で目にすることが増えました。犯罪白書によると、65歳以上の犯罪件数がこの10年で約5倍に増え、とくに窃盗が多い女性の場合、8割が万引き。貧しさと一人暮らしによる孤独感、地域と隔絶した疎外感による「孤立うつ」が後押ししているケースが多く、刑務所行きの件数も右肩上がりです。出所数も増えて年間約6400人。そのうち3人に1人は2年以内にUターン。つまり再犯率が高い。一人当たりの受刑者コストは年間約320万円と生活保護より多額だからか、政府は2020年までに受刑高齢者を3割以上減らす目標を立てています。それでも刑務所内での高齢者は今や5人に1人の割合に達し、徐々に老人ホーム化しつつある。娑婆に戻っても居場所がないからという無職老人が多く、病気や障害に苦しむ受刑者は無料の医療・介護施設として利用する面がある。セーフティネットが十分でないという悲しい現実の裏返しでしょうか。そのセーフティネットの一つ、生活保護を受けている世帯のうち、この3月で65歳以上の高齢者世帯が全体の5割を超えたと厚生労働省が発表しました。生活保護制度ができた1950年以降初めての現象だそうです。


老後貧困への不安は一流企業のサラリーマンの心の中にも侵入しつつあります。働き盛りが介護離職に追い込まれるだけでなく、無事に定年を迎えて退職金をもらいこれからは熟年ライフを楽しむぞというハッピー・リタイアメント組も、医療・介護を必要とする老親と非正規雇用の息子・娘への経済援助に迫られるというサンドイッチ状態に苦しんでいます。想定外のダブル負担が重くのしかかり、預貯金を取り崩していく。こうした高齢者を追ったNHKスペシャルは「老後破産〜長寿という悪夢」というタイトルでした。何歳まで働きたいかという内閣府のアンケート調査では、「70歳ぐらいまで」「75歳ぐらいまで」「76歳以上」「働けるうちはいつまでも」を合わせた数字は65.9%、つまり3人に2人は働き続ける老後を自己イメージしています。やっぱり日本人は勤勉な民族だと喜ぶのは物事の一面でしかありません。「一億総活躍社会」が「一億総老後崩壊」にならぬよう、人生90年時代という人類未曽有の超高齢社会の先頭を走る民族として、後に続く国々にいいお手本を残したい。「物のない貧乏生活」と「足るを知らない心の貧しさ」、その双方を超えたところに人生終盤の安らぎの日々がある。そんなイメージの老後を私たちがこの社会で実現できれば、それが本当の「世界遺産」になるのではないでしょうか。




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