この夏は、選挙というものを身近に感じる人が増えたのではないでしょうか。民主主義の根本を支える民意の直接表現である投票の力を見直す出来事が起きたからです。EUから離脱するか残留するかの単一争点を問うたイギリスの国民投票のことです。6月23日の投開票の結果、僅差の勝利が予想されていた残留票は48.1% にとどまり、離脱を選んだ人が51.9%に達して、さらばEUという結果になりました。このニュースは世界の多くの地域で驚きをもって迎えられ、世界史に残る出来事と書いた新聞もありました。何百年も戦争に明け暮れたヨーロッパ地域。1945年の第二次世界大戦後平和と経済繁栄をともに分かち合おうと誓い、今や28カ国にまで進んだ国家統合の波が、これで再び逆戻りするのではないかという危惧が広がったからです。一国の投票が世界を震撼させる。一票の力、一票の重さを久しぶりに感じさせた出来事でした。


とはいえ、当のイギリスでも結果は意外だったらしく、「どうせ選挙結果は残留だろうから、自分の一票くらいでは大勢に影響はないと思って、離脱の方に入れただけ。まさかこんな結果になるとは」とテレビのインタビューに答えた男性がいました。「もう一度国民投票をやり直せ!」と求める人も400万人以上に達しています。移民や難民の増加に不安を抱いた人、英国に主権を取り戻せという愛国スローガンに乗った人……が離脱を選択したという調査もありました。では、離脱投票は短慮だったのかというと、そう簡単には言えません。投票基準にはいろいろな要素が混じり一概に決められませんが、根底には自分の暮らしにとってプラスかマイナスかという判断があります。もう一歩進めると、自分たちのお金である税金をどう使うのがベターなのかという考えに行きつきます。ここで私たちはこの夏、考えを深めるいい機会を得ました。舛添要一都知事が辞職に至った原因の“公金の公私混同”問題です。マスメディアによる批判の大合唱は多くの都市住民に納税者の感覚を植え付けました。東京オリンピック開催資金についても、限りある税金の中で優先順位をどうするかという発想が強まっています。このセンスがさらに選挙にどう結び付くか。日本の民主主義の成熟という観点からは興味深いところです。


7月は参議院議員選挙や東京都知事選挙がありますが、もう一つ、日本史上初めてのことがあります。選挙権が20歳から18歳に。全有権者の2%ですが、ざっと240万人の新有権者が誕生しました。若い人からは「私が投票したくらいで政治は変わらない」という声が聞かれ、確かに参院選の年代別投票率を見ても1992年以降、60歳代が60〜70%台と高いのに対して20歳代は30%台と低迷しています。今回新参加の240万人からも「たった2%なら影響力ないじゃん」と諦めムードが。しかし、先ほどのイギリスの国民投票で、もし2%が離脱でなく残留に入れていたら結果は大逆転!になっていました。ブラックバイト、奨学金という名の教育ローン、毎年迷走する就活の在り方など、若い世代には不満や不安があります。私憤を公憤に!愚痴にとどまらず社会を変えようというエネルギーの発露が投票という行為です。この潜在マグマが、初の国政選挙でどう動くか。その興味とともに忘れてはならないことは、国や町の在り方を変えようとするとき、世界の少なからずの国ではクーデター、暗殺・虐殺といった暴力が行使される現実です。自分の一票で社会が変わるかもしれない。そのシステムのありがたさも噛みしめてほしいですね。投票率の低さが徐々に民主主義というシステムを腐食していくという暗い未来図も頭の片隅に入れておいてください。




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