「やった!これで20個ゲットだ」。といっても、7月末から配信された ポケモンGOの熱狂ファンの声ではありません。ユネスコの世界遺産に東京・上野の国立西洋美術館が7月17日登録決定し、日本の世界遺産が自然・文化併せて20件に達したことへの喜びの声でした。1959年に建てられたこの美術館は、スイス生まれの建築家、ル・コルビュジエ(1887〜1965年)による設計。それまで壁で支える構造が主流だった建築物を、鉄とコンクリートとガラスという新素材を駆使して杭と柱だけで間仕切りなしの広い空間 ピロティーを取り、たっぷりの自然光を取り入れ、スロープで快適な移動を可能にした20世紀の建築革命を主導した人物です。今回の登録理由は「ル・コルビュジエの建築作品〜近代建築運動への顕著な貢献」。対象は7カ国フランス、日本、ドイツ、スイス、ベルギー、アルゼンチン、インドに現存する17の建築物で、国立西洋美術館はその一つ。国境をまたいだ登録は世界遺産史上初めて、大陸をまたいだ登録も初めて、日本では東京都内の世界遺産は初めてと初物尽くしです。


「これで世界に誇れる観光資源になった」と地元の台東区やアメ横商店街は大喜びです。こうした声は、このところ世界遺産に登録が決まるたびに地元であがります。全国的な話題になれば観光客がたくさん来るという皮算用でしょう。確かに、世界遺産決定後は観光客が繰り出して大賑わいになります。でも、石見銀山(2007年)、平泉・中尊寺(2011年)、富岡製糸場(2014年)などは登録後1、2年はどっと観光客が殺到するものの、その後はサッと潮が引くように以前と変わらない水準に戻っています。中には、大型バスの騒音・排気ガス、観光客がもたらすごみの山、山菜や植木の盗難など観光公害を訴える地域もあります。観光振興そのものはいいことでしょうが、国内各地、世界各国からのお客さんを迎えつつ地元の共同体や伝統文化との調和を図るには今まで以上に知恵を絞り出さなければなりません。石見銀山の地元では民間と行政が拠出した基金を原資に里山の保全やNPO法人によるガイド活動などを活発化させ、世界遺産という形を受け身で守るのではなく、住民活動が主体となって観光客の満足度を上げていく方策を模索しています。世界遺産が後押しする新たな町おこしともいえる試みです。


世界遺産が大好きな日本人。でも、熱しやすく冷めやすいのも事実です。ユネスコの世界遺産は1972年に条約ができて1975年に正式に発効して以来40年余の歴史。しかも日本が条約に批准したのは1992年。政府も国民も20年間無関心だったのに1993年に姫路城、法隆寺、白神山地、屋久島の4つが世界遺産となると一気に世界遺産フィーバーが起こり、世界遺産というテレビ番組が毎週放送され、次はうちだと登録候補が列を作る状態です。国単位で登録数を競うのはまるで国家単位でメダル獲得数を競うオリンピックのよう。そのオリンピックも憲章で国家でなく個人が競うのが原則と定めているのに、今夏判明したロシアの国家ぐるみのドーピング漬け体制は金メダル多数獲得で、国威発揚という五輪精神をねじ曲げたもの。世界遺産条約も無類のかけがえのない物件(いずれの国民に属するものであるかを問わない)と注釈をつけて、人類全体の財産だと謳っています。1052件に膨らんだ世界遺産を楽しむことにケチをつけるつもりは毛頭ありませんが、権威筋がお墨付きを与えたものだけに群がるというお上に弱い体質はそろそろ卒業時期ではないでしょうか。「世界遺産であろうがなかろうが、私はこれが好き」と固有の嗜好と趣味を持つ人たちも多くいます。他人がどう言おうが、自分が好きなものに淫するマイブームは若者だけでなく中高年にも広がっており、日本は今やオタクの国です。「右向け右!」になびかない多様性の価値を体で知る人こそ、世界各地の人と上手につながるグローバル人間になっていくのでしょう。




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