今年の夏の思い出。リオデジャネイロ・オリンピックでの日本勢の活躍があり、興奮にひたりながら4年後の東京大会へと夢をつなぎました。一方、台風が過去二番目に多い6個の日本上陸となり、九州や東北・北海道などが局地豪雨に見舞われ各地で洪水・浸水被害が相次ぎました。今夏に登場して今もなお興奮と地響きが続いているものが、もう一つあります。ゴジラです。映画『シン・ゴジラ』は7月29日の公開以来、映画館は盛況続きです。観客500万人、興行収入70億円を超え、今年の邦画実写映画ナンバーワンの成績がほぼ確実と言われています。この映画のすごいのは、鑑賞後も「面白かった」「すごい迫力だった」といった感想にとどまらず「政府の対応はあれでよかったのか」「もっと迅速な対策が打てなかったのか」など、新聞、テレビ、雑誌、ネットというメディアで今もなお熱くて真摯な議論が交わされているという現実です。政治家、官僚、ジャーナリスト、科学者、ビジネスマンたちが現実の危機を前にしたように真剣に語り合う。一つの映画の余韻としては極めて珍しい現象です。


そもそも『ゴジラ』は1954年に第1作が東宝によって製作された映画で、今回の『シン・ゴジラ』が29作目になります。アメリカの核実験の影響を受けて誕生した生物がゴジラだという設定です。その後、モスラ、エビラなどさまざまな怪獣との格闘技が見ものという続編が生み出され、その人気に便乗して米ハリウッドも2作製作しました。次第に子どもやオタクが見る怪獣ものとの声も出てきましたが、今回は違いました。脚本も担当した庵野秀明総監督はゴジラをすでに周知の生き物とせず、第1作と同様に正体不明の巨大生物としました。それが東京湾から東京に上陸してきた、さあこの非常事態に国家としてどう対応すべきなのか、何ができるのかできないのか、と政府や行政の危機対応をリアルに描くことに重点を置きました。首相や官房長官や防衛大臣や都知事や専門家集団が突然の危機に「想定外」を持ち出して右往左往する様子は、いつか私たちが見たような光景です。阪神淡路大震災、東日本大震災、福島第一原発事故が下敷きになっているのでしょう。


映像もリアルです。自衛隊の戦闘機や武器などは総合火力訓練時の実写映像を使い、東京のJR駅構内が乗客であふれかえる光景は3・11当日を、高層ビルが倒壊するCG場面は9・11テロを彷彿とさせます。首都防衛のため自衛隊に初めて防衛出動が出され、武器の無制限使用も許可されるといった緊迫した空気も絵空事とは思えません。核廃棄物を体内の原子炉に抱えるゴジラを抑えるには、それを冷却・凝固する必要があり、そのデータ解析を世界中のスーパーパソコンに分担、協力してもらうというストーリーには核兵器拡散を防ごうとする現代国際社会の姿が映されているようです。この夏、核実験を強行しミサイル発射実験を繰り返した北朝鮮の動きも、この映画をフィクションを超えたリアルと感じさせました。映画のキャッチコピー「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」が不気味に響きます。いつどんな突発的な大惨事がやってくるか。今、日本人の大半が不安の中で生きています。予想される超大地震と津波、年々巨大化する台風の威力、近隣国からの攻撃、戦争……。国家機能、行政システムは危機をうまく乗り切れるのか、今よりもっと強力な対応力をつけるべきだ。こんな不安と期待が『シン・ゴジラ』人気の源なのは間違いありません。この映画を機に巻き起こった各層の議論を危機対応の知恵に昇華できたら、ゴジラも本望でしょう。異界から来た客人(まろうど)が、その共同体の本質を明らかにするという伝承が日本には古からあります。私たちが何をすべきなのか、ゴジラから教えてもらう秋はまだまだ続きそうです。




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