「夫とは一緒の墓に入りたくない」、「定年後は夫と離れて私だけの第二の人生を歩みたい」…。ひと昔前、1990年代半ばでしょうか、女性たちのこんな声が頻繁に新聞やテレビで紹介され、その後「定年離婚」や「熟年離婚」という言葉が流行語にもなりました。男女雇用機会均等法(1985年)ができ働く女性が半数近くになり、専業主婦の割合は一気に減りました。バブル景気崩壊(1991年)以降離婚件数が上昇曲線を描いたのは、経済力を身に付けた自立志向の強い女性たちがなでしこ伝統の我慢・忍従の鎖を一気に取っ払ったからでしょう。 2002年には年間29万件と史上最多を記録、身の回りでバツイチを名乗る男女が珍しくなくなりました。離婚しても夫の年金の半分もらえるとの制度改正でさらに離婚は増えると見込まれましたが、2011年以降は22〜23万件とほぼ横ばいが続いています。戦後激変してきた日本の家族や夫婦関係はやっと落ち着いてきたのでしょうか。


いやいや、そうではなさそうです。ここ数年、死後離婚が急増しているのです。聞きなれない言葉ですが、配偶者の死後に姻族関係終了届を役所に提出すれば配偶者の親や兄弟姉妹や親類と法的な縁が切れるという手続きです。2010年に1911件だったのが2015年には2783件に増え、各地の相談会には多くの中高年女性が集まるそうですから、今後も増加する見通しとか。ここに日本の現実の一断面がくっきり表れています。そう、介護地獄です。夫の死後に夫の親(舅・姑)の介護が嫁である自分にのしかかる。人類史上初めての超高齢社会の先頭を行く日本で、60−80問題、60代の子どもが80代の親を介護する老老介護が、いま深刻な事態を迎えています。その大半を背負う嫁という名の女性たちが悲鳴を上げている、その苦渋の選択の一つが死後離婚と言っていいかもしれません。


男女どちらでも誰の同意も得ずに提出でき、残された親族は拒否できません。今のところ提出者の大半は夫を亡くした妻のようですが、姻族関係終了届を出しても相続は有効で遺族年金ももらえる一方、墓の管理義務と夫の親の扶養義務はなくなるという制度。長く同居してきた義父母からは薄情な人と責められ、介護をやめると鬼嫁!とののしられる女性もいるとか。しかし40〜60代の女性たちが、夫亡き後も30年から50年は続くであろう第二、第三の人生をもっと自由に、有意義に生きたいという気持ちを抱くのは当たり前です。義理の親の介護も厭わぬ女性も世の中にはいるでしょうが女は嫁いだら一生婚家に留まるべきという長らく続いてきた家族観は、21世紀の少子高齢社会でも説得力を持つのかどうか。都会の墓地で管理責任者との連絡が途絶えて無縁仏と化し、あちこちで〇〇家之墓が掘り起こされ改装されているのを見るにつけ私たちにとって家族とは何かを深く考えるときが来ている、そんな思いを強く持ちます。




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