おもてなしという言葉を聞くと、2020年東京オリンピック招致を引き寄せた滝川クリステルさんのプレゼンテーションを思い出す人が多いでしょう。新語・流行語大賞にも選ばれたこの言葉は、2020年に年間 4000万人の訪日外国人観光客をめざせ!という政府の掛け声と共鳴し、今ではホテル、旅館、レストランなどサービス産業の努力目標のように響きます。きめ細かい応対と笑顔を外国人に向けるのがおもてなしであるという狭い意味に流れて、何だか視線が上を向いているような感じです。ところが、視線を足元に転じると身近な生活圏でもっと切実に助けを求める人がいることに気づきます。そういう人たちに救いの手、支えの手を差し伸べる人たちがいます。民生委員という名の地域のおばさん、おじさんたち(30歳代〜70歳代超)です。彼らは貧困、子育て、虐待、高齢化、認知症など、本当に困っている近所の人たちの相談に乗り、健康で自立した生活を取り戻せるよう応援する町のボランティアです。この民生委員制度ができて今年で100周年を迎えました。


1917年(大正6年)、岡山県で始まった極貧世帯を救う済世顧問制度と、翌年大阪府で発足した地域の生活実態を調べる方面委員制度とが基になり、全国に広がった制度です。日本の場合、困窮者を助ける慈善事業は古くから民間の手によるものが多く、政府や役所による公的な支援は遅れていました。そんな中で、役所が関わる民生委員は自分が住む地域で困っている人たちを見守り、心配事の相談に乗り、生活援助の方法を見つけ出す手伝いをしてきました。今風に言えば、地域福祉の最も身近な相談相手です。昔も今も無償のボランティアです。現在は全国で約23万人の方が厚生労働大臣から委嘱を受けて、非常勤の公務員として活動。都会と田舎とでは異なりますが、民生委員一人あたりざっと100〜400世帯を担当しています。子どもたちの日々を見守る児童委員を兼ねており、守備範囲は子ども、障害者、高齢者、病気療養者…と以前より幅広くなっています。


100周年を記念して記念切手が発行され、5月には東京・新宿駅前で約1500人の民生委員がパレードし、全国各地でも写真パネル展などのイベントが開かれ「一人でも多くの人に民生委員児童委員を知ってもらいたい。一人でも多くの困っている人・悩みを抱えた人を助けたい」と存在と役割をアピールしました。その背景には増大する期待と不安があります。核家族・少子高齢化が進展して一人暮らしが増え隣近所との絆が薄れた無縁社会となりつつある中、地域の事情をよく知る民生委員の存在は福祉の最前線としての重みが増しています。21世紀に入り、子どもへの虐待、DV(家庭内暴力)、ネグレクト(育児放棄)が社会問題視され家族の型が歪み壊れかけている。自立的生活のできない高齢者世帯も増える一方で認知症患者の数も急上昇中、格差社会の反映で子ども・若者・女性・老人の貧困がクローズアップ……。だからこそ、日々そういう人たちと接する民生委員・児童委員への期待がどんどん高まっているんですね。その一方で、長らく活動している現役の民生委員の高齢化が進み、後継者が確保しにくいという悩みが深刻化しつつあります。日常生活の悩み・苦しみと寄り添う民生委員・児童委員の姿こそ、究極のおもてなしに思えてきます。ひと様に見せるための美しい国よりは、現に助けを求める人たちに優しい国であってほしい。血の通ったボランティア活動を体現して一世紀、これからも民生委員・児童委員は地域の毛細血管として、温かい、優しい社会を生む原動力であり続けてほしいですね。




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