いろいろあった一年も、そろそろ納めのころ。過ぎし日を振り返りながら、新たな年への思いを燃え立たせようとする季節でもあります。寒い日々が続くなかで、心だけは温かにしよう。そんな人間の知恵が昔からあったのでしょう。世界各地で行われてきた行事や祭りが今も続いて、冬の風物詩となっているものが少なくありません。文化や芸術の分野でも12月恒例のものがあり、例えば、バレエの舞台では『くるみ割り人形』の公演が盛んに行われます。クリスマス・イブのパーティでくるみ割り人形をプレゼントされた少女、クララ。深夜にクリスマスツリーの下でまどろんでいると、ハツカネズミの軍団とくるみ割り人形との戦いが勃発、何とか軍団を撃退したくるみ割り人形は突然、凛々しい王子様の姿に戻り、お菓子の国へクララを連れていく…。ドイツの童話を基にしたクリスマス物語にチャイコフスキーの美しい旋律の舞踊組曲が合い、華麗な踊りが次々と繰り広げられる。子どもから大人まで誰でも楽しめる作品です。


それに負けない人気を誇るのが、べ―トーベンの交響曲第九番の演奏会です。『歓喜の歌』の合唱が含まれる、いわゆる『第九(ダイク)』ですね。作曲されたのは1824年ですが、年末に演奏されるようになったのは、ベートーベンの故国であるドイツのライプツィッヒで1918年から。第一次世界大戦を敗戦で迎えたドイツの人々。もう二度と戦争はイヤだという声が高まり、世界的に著名なゲヴァントハウス管弦楽団とともに『歓喜の歌』を合唱し、大みそか恒例の行事になりました。日本ではいつから演奏されるようになったのでしょうか。現在放送中の昼の連続ドラマ『トットちゃん!』(テレビ朝日)を見ていたら、わかりました。これは黒柳徹子さんの半生を描いたドラマですが、その中で日本交響楽団(現在のNHK交響楽団)のコンサートマスターを務めていた徹子さんの父、黒柳守綱氏が言い出して1947年末から始まったとありました。戦後の音楽家にとって年末に3日連続で「第九コンサート」をすると、臨時収入が入り年越しできるという切実な事情もあったようです。その後第九が年末の風物詩となったのは敗戦でどん底に突き落とされた庶民の平和への願いが通奏低音としてあり、苦難を乗り越えて生きる人間賛歌・人生賛歌が日本人好みでもあったからでしょう。


「年も押し詰まって」と表現すると、何となく借金返済の期限が思い浮かびます。「2016年の自己破産の申し立てが6万4000件を超えて13年ぶりに増加に転じた」という暗いニュースもありました。とくに40〜70代という働き盛りや退職シニア世代に目立つというのが気にかかります。高齢社会、いつまでも元気で働き続けるぞと意気盛んな人が増えたのはいいことですが、ストレス、うつ病、介護など予期せぬ事態に襲われることも覚悟して、ローンを組まねばなりません。こんな時は、重い借金を背負いながらも明るく年を越す知恵を絞った江戸の庶民の声を聞いてみるのはいかがでしょう。落語には『掛取万歳』など、一年のツケ(借金)を溜め込んだ貧乏長屋の八五郎や熊五郎たちが、借金取りをおだてすかして撃退しようと奮闘する話が数多くあります。名作もあります。借金だらけで夜逃げ寸前の魚屋の男が、大みそかの早朝に魚河岸へ買い出しに行ったとき、五十両という大金を拾って大喜び、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしたものの、女房から「あれは夢だった」だと言われて猛反省、3年間必死で働いて借金を完済して…という人情噺『芝浜』も、この季節の寄席の定番です。金がすべてではないが、あれば有難い。故・立川談志師匠が喝破したように、「落語は人間の業(ごう)の肯定」です。一年の終わりに、自分の業と向き合う時間があってもいいですね。




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