身の危険を感じるほどの暑さが続いた夏が、あっという間に爽やかな季節に切り替わりました。今年の芸術の秋は映画の話題が豊富です。カンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した是枝裕和監督の『万引き家族』が大きな刺激を与えました。その空気の中で、10月25日から11月3日まで「第31回東京国際映画祭」が開催されます。この映画祭の華はなんといっても、109カ国・地域から応募のあった1829の長編映画の中から選ばれた16作品で最高賞「東京グランプリ」を競うコンペティッション部門です。日本からも2作品が選ばれました。阪本順治監督の『半世界』と今泉力也監督の『愛がなんだ』です。『半世界』にはSMAPメンバーの一人だった稲垣吾郎が炭焼き職人という地味な役で主演していて、アイドルから完全に脱皮した彼の演技力がどう開花しているか、見ものです。


「日本映画界始まって以来の快挙が起きている」と映画評論家が驚くほど異例のヒット作がこの映画祭で上映されます。今年の日本映画を代表する作品が一挙上映される「Japan Now」部門の、上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』です。昨年2館上映から始まったところ、次第に口コミやSNSで「面白い!」と広がり、春からロードショーとなり、夏には150館を超えるほど人気に火が付きました。監督本人は当初「5000人くらいが見に来てくれれば」と言っていたのが、今や観客200万人に迫り、興行収入も10億円を越す勢いです。きょうび何千万円、いや億を超える製作費の映画が多い中で、この作品はなんと約300万円!しかも、出演している12人の俳優の大半は、あまり演技経験のない無名の人ばかり。これまで7作品撮ったという上田監督自身もこれが初の長編映画というから、なお驚きです。映画・演劇の俳優養成学校「ENBUゼミナール」で毎年行っている「シネマ・プロジェクト」の第7弾として、出演者をオーディションで集めてから上田監督が脚本を書いて制作したという異色作でもあります。


内容も型破りです。人里離れた山の中の廃墟を舞台にゾンビ映画を撮影するクルーが、突然現れた本物のゾンビに次々と襲われ、俳優もスタッフもゾンビに変わっていく、ゾンビと化した美少女が斧で切り付けると、やられた男の頭から血しぶきが飛び散るといったパニックの中で、一人監督だけが狂喜する……という出だし。その序盤の37分をノーカットで撮影したのも話題となり、前半のゾンビ場面とは打って変わって、後半から終盤にかけては、家族愛や仲間との絆を確かめ合う姿が胸に迫り、笑いと涙のまじりあう、完成度の高い96分の娯楽作品となっています。上映後、スタンディングオベーションが起きる映画館もあるようです。すでにイタリア、ドイツ、ブラジルなど世界各地で上演されており、いくつかの映画祭で受賞も相次いでいます。「資金がなくてはいい映画は作れない」と、とかくハリウッド式の超大作志向だけが話題になりがちですが、この「カメ止め」旋風は、アイデアと意欲とセンスさえあれば、多くの人の共感を得る作品が生み出せることを証明しています。夢はあっても金のない若者たちにいい刺激になったことでしょう。小さい世界に生命のエッセンスをギュッと詰め込んだ盆栽のような快挙。世界的なBONSAI人気と相まって、これもまたクール・ジャパンと自慢できそうですね。




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