犯罪で逮捕された俳優の出演作品は、すべて見られないようにすべきなのか。本人の演じた役が主役でなく脇役の一人であった場合でも、作品そのものを“お蔵入り”にしてしまっていいのだろうか。芸能界やメディア界で、今こうした議論が起こっています。ミュージシャンで俳優のピエール瀧容疑者が先月、コカイン使用の疑いで逮捕されたことをきっかけに、犯罪者の出演作品は公開すべきでない、いや、個人に罪はあるが、作品には罪はないという賛否両極の意見が湧き起っています。これまでとかく、臭いものには蓋をすると言わんばかりに、公開中止・放送自粛といった措置がまかり通っていた日本の芸能界。賛成反対の立場を超えて、出演者と芸術作品との関係について、製作者側だけでなく、作品を楽しむ立場の私たち観客・視聴者の側もこの際、深い議論を重ねてから、この種の問題の原則を見いだして、個々のケースへの応用を模索した方がいいかもしれませんね。


今回の事件にいち早く反応したのは、現在放送中のNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」です。個性的な演技で人気のピエール瀧は、日本人で初めてオリンピックに参加したマラソン走者の金栗四三に競技用の足袋を開発・提供する職人役で出演していました。結構重要な役どころのようで、逮捕後ほどなくして降板が決まり、数日後には代役も発表されました。再放送分から本人の出演場面がカットされ、NHKオンデマンドで見られる今までの出演箇所が削除されました。さらに過去に出演した朝ドラの「あまちゃん」「とと姉ちゃん」、大河ドラマの「龍馬伝」もオンデマンドでの配信停止という徹底ぶり。その理由をNHKは、犯罪行為を是認するような取り扱いはしないとした国内番組基準にのっとった措置だと説明し、視聴者への影響など総合的に判断した結果だそうです。NHK以外でも5月封切りの映画「居眠り磐音」と今秋公開予定の映画「ロマンスドール」では、ともに代役を立てて撮り直しすることになりました。逮捕された俳優の完全消去という自粛措置が、これまでの日本では当たり前だったわけです。


ところが、4月5日公開予定の映画「麻雀放浪記2020」は異なる対応を見せました。本人の出演場面を カットせず、差し替え・撮り直しもせず、予定通りに公開すると。配給元の東映の説明では、劇場での上映は有料であり、鑑賞の意思を持ったお客様が来場するというクローズドのメディアであり、テレビ放送やCMなどとは性質が異なるとの理由を挙げています。“お蔵入り”となると、金銭的な損害が大きいという経済的な事情は分かります。一方で、芸術的な観点からの批判も出ています。映画やドラマは脚本・演出・俳優を軸に、数多くの制作スタッフによって作られる総合芸術であるから、一人の不祥事を理由に作品そのものを抹消するのはやりすぎだという意見です。犯罪など反社会的な要素を排除して、顧客・消費者の不信感を取り除くことが先決になる企業風土が、すべてボツという潔癖体質を作り上げている、という声も聞きます。クレーマーによる批判拡大を恐れ、“炎上騒ぎ”を回避しようという心理も透けて見えます。ムラ社会といわれる日本では、何でも連帯責任という風潮がまだ強い。犯罪に手を染めた俳優の演技がその映画・ドラマの価値を下げているかどうか、という芸術的な観点からの評価も大切ではないか。罪の重さと処罰の重さのバランスを個々に判断する大局観が必要ではないか。異論・反論を認めない非寛容の風が当節強まっているようなので、この事件を契機に冷静に考えて、日本文化に厚みと深みという多様性を加えるのも悪くないでしょう。




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