例えば、人気俳優やタレントが不倫している、影響力の大きな政治家がある企業から賄賂を受け取っている、新薬で巨額な利益を得た製薬会社が重大な副作用があることを隠している……。事実であれば大ごとになりますが、もし事実でなく、しかも情報発信者が匿名となると、当事者は事実ではないと姿の見えぬ相手にむなしく訴えるしかありません。事実でないことを事実のように伝える、ニセ情報=フェイクニュースがここ数年、世界中にあふれています。インターネットの普及、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のおかげで、誰もが自分のパソコン、スマホから全世界に情報発信できるようになり、地球上の74億人の大半が恩恵を受けています。でも物事には光と影がある。ニセ情報が広がるという「影」が地球全体を覆う、という人類史上初めての事態を迎えているのです。


憎い相手を中傷するビラを電柱に張りつける、敵対する人物や組織の悪口を書いた怪文書をばらまく、といった行為は昔からありました。でも一瞬のうちにそれが全世界に広まるなんて誰が想像したでしょう。事実かどうかの一線はジャーナリズムだけでなく、当時者にとっても絶対に守るべき倫理基準であったはずです。でも今のトランプ大統領が自分にとって望ましくない事実をフェイクニュースと断じるようになってから、ウソをつくことの悪徳性が薄まったのか、世界各地からフェイクニュースが湧き出るようになりました。東欧の発展途上国マケドニアの田舎町では、仕事のない若者たちがパソコン一台で次々とアメリカの政治家やスポーツ選手やハリウッドスターについてのフェイクニュースを作り上げているのです。そのリポートがテレビで報道されました。刺激的なニュースであればあるほど何百万人ものアクセス数があり、それに応じて発信者に収入が入るという仕組みです。つまりフェイクニュース作りがそこでは一大産業になっているのです。若者たちは悪びれた様子もなく、信じる信じないは見る人の勝手だと笑っていました。


フェイクニュースは年々巧妙になっています。当初は文字情報だけ、やがて写真や動画まで偽作が可能になり、今ではAI(人工知能)を使って本物と見まごうほどの精巧な映像が流れるディープフェイクが登場。来年に大統領選挙を控えるアメリカでは、おそらく敵対陣営から、ある大物議員の演説映像の回転速度を遅くして、いかにも本人が酔っ払って話しているような悪意の編集をしたり、オバマ前大統領がトランプ大統領は間抜けだと事実とは異なる発言をしたように加工したり。事実を伝えるのが使命のジャーナリストたちは、そのウソを暴いて本当の事実はこうだというファクトチェック(事実の検証)を欧米や日本でしています。ただ調査機関によると、ニセ動画を作る者が100人だとすると、それをチェックするのは1人という現実とか。まさにもぐらたたき状態です。ニセ情報の跳梁跋扈が防げないとなると、これからの情報社会、このニュースは事実かフェイクかを、私たち一人一人が確かめなくてはならなくなるのでしょうか。意見や立場は異なっていても今の社会の現実はこうだという事実関係についての共通理解がなくては、民主主義社会の議論は成り立ちません。フェイクニュースはその土台を壊し始めてます。そんな恐怖感を抱く人は、近未来に嫌な時代の到来を予感して、この暑い季節でも、きっと背中にゾクッと寒気が走っていることでしょう。




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