5月下旬で緊急事態宣言が解除された日本ですが、世界全体に目を向けると、新型コロナウイルスの脅威はまだまだ去っていません。多くの国や都市で2〜3カ月も外出禁止や営業停止・自粛という非常手段がとられ、不自由な日常生活が100日ほども続きました。その影響が、さまざまな形で出ています。「3密」環境である家庭で、夫婦や親子が四六時中顔を合わせる状況がずっと続いてくると、家族愛が深まるという反面、ストレスがたまってイライラがつのり、親子や夫婦関係がギスギスして、ケンカやDV(家庭内暴力)が頻発という負の面も表面化しています。職場や学校の休みが長くなるとこれからの人生、一体どうなるの?という不安が高まり、夜眠れない、食欲がなくなったという症状も増えているそうです。コロナ鬱と呼ばれ、さらにコロナ離婚やコロナ自殺という言葉さえ生まれています。


ヒトという種が生き残ってきたのは、人と人が会い、言葉で意思を通じ合わせ、行動を共にしてきたからだと動物学者が説明しています。その人類の特性と相反する行動を余儀なくされているのが、今回のコロナ騒動です。会ってはいけない、なるべく距離をとれ。つまり人間関係の断絶が感染予防の特効薬という文明史上の悲劇です。日常生活で気の合う人と会えない日々が続くと、だんだん寂しさや疎外感にさいなまれ、孤独感に苦しむ人も少なくないでしょう。その一方で、社交的な人の方が優れているという今までの価値観を見直して、自分の本当の声をじっくり聞こうという風潮が出てきているそうです。米ワシントンDCに住んで日米間の文化・経済問題のコンサルティング活動を四半世紀も続けている小林知代さんのリポートによると(週刊『エコノミスト』誌)、アメリカ社会で今、自分と向き合う時間を大切にしようというマインドフルネスの人気が急上昇中とか。独りになる時間の効用を説く書籍や記事やテレビ番組が目立ち、カーム(穏やかさ)、ブリーズ(呼吸)、ベターミー(よりよき自分)、と銘打った内面観察アプリの売れ行きもいいそうです。陽気で人付き合いのいいアメリカ人というイメージに瞑想し奥行きのある人格が加わるかもしれません。


イギリス政府に2年前孤独担当大臣が創設されたとき、21世紀の文明病は孤独という論調が広まりました。このコロナ禍は、ますます人と人との距離を遠ざけ、孤独に苦しむ人間を地球上に増やすのでしょうか。悲観論の一方、楽観論もあります。21世紀に普及したネット技術、スマホ、SNSの力です。肉体の距離は離れても、ネットでつながれば心の距離は縮まる。今回、職場ではテレワーク、学校ではオンライン授業が激増しました。新たな時代の胎動か。それに、独りになって自分を見つめるのは日本人の得意技だそうです。平安時代から続く日記文学の伝統がそれです。コロナ鬱の予防・治療策は、寂しい・つらいという感情を言葉にして可視化して他人と共有すること。それがカウンセラーの処方箋です。今ならLINE、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなど多種多様な日記帳があります。人と協働しながら20万年の歴史を生きてきた人類が、これからは人と会わない存在に変容するのか。2020年はホモサピエンスの大転換期だった、と後世の歴史家は記述するでしょうか。




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